The world atlas of artificial night sky brightness 2016


イタリアのFabio Falchiらの研究グループは、最新の衛星画像と天空輝度測定値から計算した「夜空の明るさ世界マップ(光害マップ)」を2016年6月に発表しました。

元論文:【The new world atlas of artificial night sky brightness
インタラクティブマップ:【Interactive Map】(14段階の色分け)

以下に、論文の概要を掲載します。
(14段階の色分けの図と、6段階の色分けの図がありますので、ご注意ください。)

アブストラクト
 人工照明は夜空を照らし、光害の最も顕著な影響である「夜空の明るさの増加」を引き起こしている。多くの分野(生態学、天文学、医学、土地利用計画など)の研究者の間で関心が増す一方、世界規模で光害進度の現状を定量化する研究は遅れている。この点を克服するため、我々は「夜空の明るさ世界マップ」を作成した。このマップは、高解像度衛星画像と高精度天空輝度測定値のデータを用い、我々の光害伝播計算ソフトウェアで計算された。この世界マップによると、世界人口の80%以上、欧米人口の99%以上が、人工光の影響で明るくなった夜空の下で生活している。普段暮らしている場所で天の川が見られないのは、世界人口の3分の1以上、欧州人の60%、北米人の80%近くに達する。北緯75度と南緯60度の間の土地の23%、ヨーロッパの面積の88%、米国の面積の約半分が、人工光の影響で夜が明るくなっている。

日本付近の拡大図(14段階の色分け)
Credit: Falchi et al., Sci. Adv., Jakob Grothe/NPS contractor, Matthew Price/CIRES.

全国


東京周辺


名古屋〜大阪周辺


中国〜九州


沖縄・離島


東北・北陸


北海道


上の図は、14段階に色分けられています。
Ratio人工光の輝度自然光+人工光の輝度color
<0.01<1.74<0.176
0.01-0.021.74-3.480.176-0.177濃い灰
0.02-0.043.48-6.960.177-0.181
0.04-0.086.96-13.90.181-0.188濃い青
0.08-0.1613.9-27.80.188-0.202
0.16-0.3227.8-55.70.202-0.230薄い青
0.32-0.6455.7-1110.230-0.285濃い緑
0.64-1.28111-2230.285-0.397
1.28-2.56223-4450.397-0.619
2.56-5.12445-8900.619-1.065
5.12-10.2890-17801.07-1.96
10.2-20.51780-35601.96-3.74マゼンタ
20.5-413560-71303.74-7.30
>41>7130>7.30
Ratio:人工光による夜空の明るさの増加量が、自然の夜空の何倍か。
人工光の輝度:人工光による夜空の明るさ(マイクロカンデラ/m^2)
自然光+人工光の輝度:自然の夜空の明るさと人工光による夜空の明るさの合計(ミリカンデラ/m^2)

色分けについて、いくつかのコメント
colorコメント
自然本来の暗さ。人工光の影響が、自然の夜空の明るさの1%未満。
濃い灰人工光の影響が1〜2%。光害が増加しないよう、注意して保護すべきエリア。
人工光の影響が8〜16%。天文学的見地から、光害に汚染されている夜空。
人工光の影響が自然の夜空の明るさの1.28〜2.56倍。冬の天の川が見えにくい明るさ。
人工光の影響が2.56〜5.12倍。夏の天の川が見えにくい明るさ。
人工光の影響が5.12〜10.24倍。暗所視から明所視に切り替わる明るさ。自然界の航海薄明の終わりの明るさ。

世界マップ(14段階の色分け)
Credit: Fabio Falchi et al. Sci Adv 2016;2:e1600377

 これらの図は、天頂での人工光による夜空の明るさの増加量が、自然の夜空(大気光・黄道光・星野光が存在。22 mag/arcsec^2と仮定(太陽活動極小期))の何倍かを表す。また、人工光の明るさは時刻と共に変化するため、人工衛星が午前1時頃に通過した時に見える明るさに補正されている。
 より大きな図は、元論文からダウンロード可能。

Fig.2 世界


Fig.3 北米


Fig.4 南米


Fig.5 欧州(左:他の図と同様 右:照明が色温度4000KのLEDに置き替わった場合の予測)


Fig.6 アフリカ


Fig.7 アジア


Fig.8 オセアニア


 上記のFig.5では、欧州の街灯が高圧ナトリウムランプから白色LEDに切り替わった場合の影響を表している。光量と上方光束の割合が変わらないと仮定して、LEDは2.5倍、夜空の明るさへの影響が大きい。色温度が高いほど、影響が大きくなる。LED照明に切り替わっていく中、青色成分が抑制されなければ、夜空はますます明るくなってしまう。また、この解析で使用されている人工衛星画像のVIIRSのセンサーは500nm以下に感度を持たないため、今後LED照明に切り替わり青色成分が増えれば、この画像には映らなくなってしまい、光害が減ったとの誤解を生む危険性がある。

光害進度の6段階のレベル分け
これ以降、光害の影響を受けた夜空の見え方のレベルを、以下の6段階で表すこととする。(訳者注:この日本語ページでは、便宜上「レベル1」〜「レベル6」の表記を追加します。)
レベルcolor人工光の輝度夜空の見え方
<1.7自然本来の夜空の暗さ(Pristine sky)
1.7-14地平近くで光害(Degraded near the horizon)
14-87天頂付近で光害(Degraded to the zenith)
87-688自然の夜空の消失(天の川が何とか見える)(Natural sky lost)
688-3000天の川の消失(明所視に変わる手前)(Milky Way lost)
>3000常に明所視(Cones active)

光害のない夜空を見るための移動距離
 地球上で、天の川を見るために最も長距離を移動しなければならないのは、エジプトのカイロ付近。他に大面積にわたり天の川が失われたのは、ベルギー・オランダ・ドイツ(ドルトムントからボンにかけて)、イタリア北部のパダノ平原、アメリカのボストンからワシントンにかけての地域。イギリスのロンドンからリバプール・リーズにかけて、中国の北京と香港周辺、台湾も同様。パリ付近に住む人は、レベル2の夜空を見るために900km移動が必要(行先はコルシカ島、中央スコットランド、スペインのクエンカ県)(Fig.9 の黄色い円)。ヌーシャテル(スイス)から最も近いレベル1の夜空は1360km先で、スコットランド北西部かアルジェリアかウクライナ(Fig.10 の赤い円)。離島では、レベル1の夜空が見える地上の土地(すなわち海上を除く)までもっと長距離を移動しなければならない場所がある。バミューダ諸島から最も近いレベル1の夜空の土地は、1400km以上離れたノバスコシア州(カナダ)。地球上で最もレベル1の夜空の土地から離れた場所はアゾレス諸島で、サハラ砂漠西部まで1750km以上。

Fig.9


光害進度の人口割合と面積割合

Fig.10 光害進度の6段階のレベル分けを用いた世界マップ


 我々の結果から、世界人口の約83%、欧米人口の99%以上が、人工光の影響で明るくなった夜空(レベル3以上の夜空)の下で生活していることが判明した。光害のため、世界人口の3分の1以上、欧州人の60%、北米人の80%近くが、普段暮らしている場所で天の川が見られない。北緯75度と南緯60度の間の土地の23%、ヨーロッパの面積の88%、米国の面積の約半分が、人工光の影響で夜が明るくなっている。
 光害の影響を受けていない人口の割合が多い国は、チャド・中央アフリカ・マダガスカルで、人口の4分の3以上がレベル1の夜空の下で生活している。光害の影響を受けていない国土の割合が大きい国・地域は、グリーンランド(レベル1でない面積はわずか0.12%)・中央アフリカ(0.29%)・ニウエ(0.45%)・ソマリア(1.2%)・モーリタニア(1.4%)。
 一方、最も光害の影響が大きい国はシンガポールで、全人口がレベル6で暮らしている。その他には、クウェート(人口の98%がレベル6)・カタール(97%)・UAE(93%)・サウジアラビア(83%)・韓国(66%)・イスラエル(61%)・アルゼンチン(58%)・リビア(53%)・トリニダードトバゴ(50%)で、これらの国々は人口の半分以上がレベル6の空の下で暮らしている。
 全人口が、自宅から天の川が見える可能性がゼロである国は、シンガポール・サンマリノ・クウェート・カタール・マルタ。UAEは人口の99%、イスラエル98%、エジプト97%。天の川が見えない国土の割合が大きい国は、シンガポール(100%)・サンマリノ(100%)・マルタ(89%)・ウェストバンク(61%)・カタール(55%)・ベルギー(51%)・クウェート(51%)・トリニダードトバゴ(43%)・オランダ(43%)・イスラエル(42%)。
 G20の国では、サウジアラビアと韓国が最も光害の影響を受けている人口の割合が大きく、ドイツがその逆である。面積ではイタリアと韓国が最も大きく、オーストラリアがその逆である。
 前述のように、データは午前1時を基準に補正されているため、通常人々が星を観察する時間帯はもっと状況が悪いことが予想される。

以下の図は、元論文をご覧ください。
Fig.11 光害進度6段階で分けた人口割合(G20と世界合計)
Fig.12 光害進度6段階で分けた国土面積の割合(G20と世界合計)
Fig.13 光害の影響を最も受けていない国(人口割合)(レベル1の割合順)
Fig.14 光害の影響を最も受けている国(人口割合)(レベル6の割合順)
Table.2 世界各国の光害進度6段階の数値表(人口割合・面積割合)

Table.2 からいくつか抜粋
国名人口割合(%)面積割合(%)
Lv1Lv2以上Lv3以上Lv4以上Lv5以上Lv6以上Lv1Lv2以上Lv3以上Lv4以上Lv5以上Lv6以上
日本0.0100.099.996.770.429.90.199.991.139.27.11.0
韓国0.0100.0100.099.891.066.40.0100.0100.089.419.13.5
中国0.999.188.964.632.511.944.855.230.010.81.60.2
北朝鮮27.372.742.415.41.10.061.938.110.01.80.00.0
シンガポール0.0100.0100.0100.0100.0100.00.0100.0100.0100.0100.0100.0
米国0.0100.099.797.277.636.930.469.646.923.23.60.6
1.798.392.780.961.832.066.533.516.04.90.60.1
UK0.0100.099.998.277.026.03.696.486.460.813.51.4
0.0100.0100.094.358.926.60.0100.0100.064.56.70.7
0.0100.0100.096.041.62.70.0100.0100.074.24.80.1
世界8.092.083.263.735.913.960.339.722.58.61.2
※レベル2〜6は「以上」ですので、例えば日本のレベル2に住む人の割合は0.1%(=100.0-99.9)、レベル3に住む人の割合は3.2%(=99.9-96.7)などとなります。

結論
 ここに示した結果は、光害が世界規模の問題であることを表している。世界の大部分がこの問題の影響を受けている。人間はこの星を輝く霧で覆い、我々のいる銀河を見えなくしてしまっている。このことは、我々の文化に前例のない規模の影響を及ぼす可能性がある。光害はさらに、地球規模での生態系への影響[21]、人間の健康への悪影響[22-24]、エネルギーと資金の浪費[25]にも繋がっている。光害は直ちに取り組まれなければならない問題である。なぜなら、これはすぐに(照明を消せば)軽減できる問題だが、その影響は簡単には消えないからだ(たとえば、生物多様性や文化の消失)。幸いなことに、光害を大幅に軽減する方法はすでに知られており[16]、大規模なアクションもすでに行われている(たとえば、イタリアのロンバルディア州や他の多くの地域、スロベニア、チリの2ヶ所、カナリア諸島の一部など)。光害を減らす主な対策は、以下のようなものである。光が水平面より上方向や必要ない場所に漏れないよう、適切な覆いをつけること。必要最小限の明るさを使うこと。必要ない時間には、消灯・減灯すること。設置する光束量を最小限にすること(これは他の環境汚染と同様)。青色成分(サーカディアンリズムや暗所視への影響が大きい)を厳格に抑制すること。
 現代のテクノロジーを使えば、さらに光害の影響を減らすことができるだろう。たとえばセンサーを用いて街灯や道路灯をリアルタイムの交通量・気象条件と連動させることで、夜間の交通量が少ない時間帯に大幅に光を減らすことができる。未来の自動運転車では、もはや道路灯は必要ないかも知れない。
 光害はまた、人工照明は交通の安全性と防犯に役立つという我々の考えの結果でもある。しかし、この考えには科学的な根拠はない[26,27]。資源が限られている中、諸国は問題解決のために効果的な資金の使い方をすべきである。照明の設置が安全性や防犯にどのように影響するか(効果的か、逆効果か、関連がないか)、慎重な試行が行われるべきである。たとえば、視界が良くなることでドライバーがより速度を出し、事故の危険性が高まるかも知れない。さらに、街灯はポールに設置されており、ポールは1日中衝突事故の危険性をはらむものである。さまざまな影響の可能性をトータルで考えたとき、街灯の有効性は未知である。
 未来へ向けて、2つのシナリオが考えられる。光害対策がうまく行けば、我々はこれほど光害に汚染された世界に住む最後の世代となる。そうでなければ、世界は明るくなり続け、ほぼ全ての人間が星を見ることができなくなる。アイザック・アシモフのSF小説「夜来たる」のように。


(updated 2016.06.13)